医師不足解消に対する技術の社会実装へのハードル。失敗した過去の麻酔ロボット。

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医師不足解消の問題は深刻です。

専門医機構として、僻地勤務を義務付ける話も出ていますよね。

他の手立てとして、色々な解決方法が考えられています。

看護師の業務範囲を広げる、デジタルでの解決策を見出すなどです。

個人的には医師の業務をできるだけ減らすことで、医療全体の効率性があがるため、どんどん医師しかできない業務を減らしていきたいところです。

一方で、制度や技術革新があるものの、医療現場にほとんど浸透していない現状もあります。

私は企業に勤める医師で、新しい治療が妥当な形で行われる手法を検討する立ち場のものです。

そういった視点で『ニーズにマッチした解決策があるのに広まらない問題』について、過去に失敗した麻酔ロボットを例にして、医師側の抱える医療改革へのバリアーも考えてみたいと思います。

結論としては、『医師の業務の多くを他へ譲渡して、医師しかできない部分に集中してもらう。医師に生産性の高い領域に集中してもらう』というマインドセットが十分ではないと考えています。

具体的になにを行うことで医師の地位・優位性が保たれるのかのソリューションもパッケージ化されていないことが問題だと考えています。

つまり、未来の医師の働き方の方向性を具体的に示すことが重要だと思っています。

ずぼら

ずぼら

この記事は、デジタルソリューションを考えているヘルステックカンパニー、製薬・デバイス企業の方に向けて書いています。

麻酔科領域での人手

先述したように、今回は麻酔科領域を例に考えてみたいです。

麻酔下領域は本当に人手不足甚だしい領域です。

例えば平常時の手術においても真っ正解が1人1人の患者にずっと付き添っていないこともあります。

一人の麻酔会が二つ三つの手術を同時並行して請け負っていることも多いです。

また、研修医や外科系専攻医の先生が麻酔管理して、たまに麻酔専門の医師がみる、みたいな体制もあります。

さらに言うと、外科医が自分で麻酔をかけ自分で手術をする、いわゆる自家麻酔が行われている病院も多々あります。

実際私も、自家麻酔したこともあります。

こういった状況は自己の温床です。

つまり麻酔下領域での人手不足は患者様に不利益を与えてしまいかねないレベルにあると 言うことです。

人手不足解消のための日本での取り組み

麻酔科内においても人手不足解消への取り組みは様々行われています。

例えば、周術期を担う看護師の育成です。

医師の業務を一部看護師に行ってもらう仕組みです。

アメリカでは随分前から導入されている、周術期管理を担う看護師の育成が試験的に行われています。

こうした取り組みは将来性の高いものなのでしょうか?

技術的には十分可能だと思います。

一方で、根付くかどうか?という点では疑問を感じます。

すでに10年前(2010年ぐらい)に、私がいた施設でも救急専門看護師の養成をしていました。

色々と経験を積んでもらい、僻地で救急業務にあたってもらう計画でした。

私も、皮膚縫合を指導したり、ギプス固定などを教えたりしました。

しかしながら、一向に普及が進んでいるという話は聞きません。

麻酔領域においても周術期管理を担う看護師育成の提言も麻酔科学会から2005年に行われており、進みが遅いです。

制度上の問題が大きいですが、現場レベルからのプッシュがどれほどあるのか?なども疑問です。

現在はSNSなどの発達により、本気で問題だと認識されていればもっと大きなムーブメントを作ることができるからです。

そしてもう一つの抜根的なソリューションが、今回主に話題にしようと思っている、麻酔ロボです。

機械により全身麻酔を行ってもらうという仕組みです。

先述したように、現在の麻酔管理の状況は医師不足により患者様に危険な状態が続いています。

そういった現状に対して、麻酔ロボの導入は適切なソリューションだと思います。

麻酔ロボの導入は患者様の安全という点でも望ましい手法です。

ということで、日本でも麻酔ロボの開発が進んでいます。

ネタは福井大学、国立国際医療研究センター、日本光電が共同開発を行っている全身麻酔の薬剤制御を行うシステムです。

少なくとも、先ほど述べたような危険な状態、つまり麻酔科医師が麻酔を複数掛け持ちしていたり、自家麻酔であったり、研修医が管理を行っていたり、という状態を考えると開発に値すると思います。

しかし、Unmet medical needsと解決策があっていればそれだけで流行るものでしょうか?

失敗した麻酔ロボット

こうしたニーズに対応するような デジタルトランスフォーメーションは盛んです。

一方で、ニーズに対応しているからといって、必ずしもそれが流行るとは限りません。

アメリカにおいて2010年代初頭登場した麻酔旅行の紹介をさせてもらいます。

大手の機械メーカージョンソンアンドジョンソンによる麻酔ロボです。

期待されていましたが、2015年に市場から撤退することになりました。

必用な麻酔科医師の人数を減らすのではなく、ジョンソンアンドジョンソンで3000人規模のリストラが行われることになりました。

非常にリーズナブルでビジネス的にも成功するようなモデルであったと思いますが、なぜこれがうまくいかなかったんでしょうか?

私自身は、アメリカで臨床したことがなく、記事の内容を信じているだけですので、本当の理由はわかりません。

一応、記事によると、理由は麻酔科医師の職を奪うとして導入されなかったことにあります。

口では医師不足を叫んでいる にもかかわらず、解消される手段が提示された時には、それが導入されないという事態が起きているということです。

麻酔科医師の手術に対しての報酬は莫大な金額です。

これが機械に置き換えられてしまうことに対して、麻酔科医師の反発が強かったようです。

つまり、合理的に物事を判断するイメージの強いアメリカですら、社会問題といってもよい、医師不足に対して新しい解決策は実際に使われることがなかったということです。

デジタルソリューションの社会実装は、医師の能力のコモディティー化

先ほどのアメリカでの麻酔ロボ導入の失敗を例に、医療のニーズにあったソリューションがなぜ定着しないのか考えてみたいです。

私はその原因が、『新技術導入により、今までの培ってきた技術の優位性がなくなったら、自分の優位性をどこに見出したらよいかわからない』という不安だと思っています。

つまり、技術のコモディティ化、陳腐化に対する不安です。

通常の技術の場合は、誰でも技術がありさえすれば使えますが、医療の場合には医師の協力がなくては行なえません。

このあたりの利益相反は今後も問題になると思います。

いままでは、医師のロールモデルがあって、それを追いかけていれば、臨床経験がたまり、それなりに業務ができる、という流れがありました。

臨床経験がたまるの部分が、機械学習に取られてしまうと、自分の業務を見つけられないと思ってしまうのだと思います。

確かに、そういった側面はあります。

一方で、機械ができることは限られているため、本来的にはやれることはまだまだあります

具体的に言うと、未知の領域のことであったり、手技系についてはまだまだ医師の優位性はゆらぎません。

しかしながら、臨床医でそこを具体的に考えられる医師はごくわずかです。

臨床が仕事なのでしょうがないです。

医療はいままで足し算で動いていました。引き算のマインドを急に持つことは難しいです

浮いた時間でなにを行うべきか?を考える作業になれていません。

したがって、新技術を開発するときには同時に医師によくよくヒアリングを行うことが重要だと思います。

つまり、新時代に当該領域の医師が余った時間でなにを行うべきなのか?どこで競争優位性を保てるかを、開発段階で明確化することです。

そこが明確化できない限り、良いものをつくっても、医療事故が社会問題にならない限り流行らないと考えます。

ガンダム型社会で医師はどう生きるか?

私はDXの流れはガンダムと同じだと思っています。

勝手にガンダム型社会と呼んでいます。

モビルスーツを使う人に対して、普通の人が同じことしてもかなわないですよね?

残酷な現実だと思いますが、すでにおきています。

医療も無関係ではいられません。

モビルスーツを使うニュータイプ医師もどんどん増えるからです。

ニュータイプにならないのであれば、ガンダムが不得意な領域を探すしかありません。

私の感覚では臨床経験は完全にAIで代替することは、現状では難しく、適切な場所を探せば医師の優位性は揺るがないと思っています。

したがって、探せば道はあると思います。

現状、医師が治療方針の実権を握っており、ある種の利益相反があるため、この問題の解決は新しい医療技術を提供する側にとって大きなバリアーになります。

新しい技術を開発する側の方は、医師に対して余剰の時間をどのように使うか、そこで競争優位性を保てるのか?利益が出せるのか?を提案する部分までパッケージングで流行らせる必要があると思います。

そこまでできないのであれば、医療技術の社会実装へのハードルは極めて高いです。

まとめ

  • 医師不足は社会問題
  • 解決手法は色々と開発中
  • 解決方法がリーゾナブルでも流行るとは限らない
  • 医師が淘汰されない方法を具体的に提示しないと、新しい技術は流行らない
  • ガンダム型社会で医師が生きる道はあるはず
ずぼら@元医師

ずぼら@元医師

製薬企業勤務、元医師

40代前半、2児の父。臨床医10年後に外資系製薬企業に就職。メディカルアフェアーズ所属。臨床医時代は臨床病院メイン。
メディカルアフェアーズメインの製薬企業情報、英語について情報発信。
今後、医療のDXが進むといいなぁ。
好きな言葉:効率がいい。楽。
課題:英語 (VERSANT 55点)

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