製薬企業において、データジェネレーションの重要性が増しています。
それに伴い、メディカルアフェアーズの存在感が増しています。
これには3つの理由があります。
- 接待ではなく、科学的なつながりが重視されていること
- Real world dataなどの新しい研究手法が開発されていること
- 上市前活動が活発になっていること
今回はこれらの理由について詳しく見ていこうと思います。
目次
科学で戦う
接待の制限
製薬企業の接待は年々制限が厳しくなってきています。
これは予算の問題と言うよりは製薬協という紳士協定から来ているものです。
これにより、接待力で頑張っていたMRさんの生存が一気に厳しくなりました。
私も臨床医をしているときに、MRさんから
- 部長の〇〇先生はマラソン好きなんですよね。私も実は走るんです。 (私、マラソンって一番キライな競技ですけど?)
- 先生はエビデンスを重視するって言っていたので漢方の研究の結果を持ってきました。(記事の内容基礎研究ですけど?)
のように昔は接待頑張ってたんだろうけれど、製品の魅力をきちんと伝えられないんだなぁと思っていたものです。
今は企業にいるので、状況的に仕方がないと理解できます。
もちろん、製品知識、疾患知識もあって、イケてるMRさんもいましたが、結構高い確率でMSLになってました。
新しいMRの武器
接待ができないとなると、用事もなく立ち話をしに医師の元へ向かわなくてはいけません。
上のような会話例もそういった状況なので仕方がないと思います。
追い打ちをかけるように、医師への面会がどんどん制限されており、立ち話すら難しくなっています。
そこで必用になるのが、『医師に会うための用事』です。
誰もが納得する理由として、講演会がある、新しいデータができたという2つの理由です。
新製品が出たばかりのときは、製品の説明をするデータだけで十分ですが、やがて飽きられてしまいますよね。
そこで、製薬企業が自分たちで将来のニュースフローを準備します。
これが、データジェネレーションが重要視される理由です。
したがって、メディカルアフェアーズの作るエビデンスは製薬企業の営業部門の武器となりえるものであり、メディカルアフェアーズに対して大きく期待される部分です。
科学による医療業界とのエンゲージメント
医療業界との科学的なエンゲージメントという観点でも非常に重要です。
以前は不適切な関係と言われるように、接待が横行していました。
先述したように、現在ではそのようなことを行うことができません。
したがって、科学的なエンゲージメントが一つのテーマになっています。
科学的なエンゲージメントとは、科学の力で医師と結びつくということです。
製薬企業が作るデータは医師とのコミュニケーションにより作られます。
どういうことかと言うと、メディカルアフェアーズが医師と対話して満たされていない医療ニーズ(Unmet medical needs)を同定し、それに対してデータを作っていくことになります。
つまり、医師と製薬企業と一緒にタッグを組んで、今わかっていないことを明らかにしていくという作業をおこないます。
それがデータジェネレーションなのです。
研究手法の開発
Real world evidence時代
みなさんも、ビッグデータという言葉を聞いたことがありますよね?
ビッグデータの一部を構成するのがReal world dataになります。
Rea world dataは日常生活を送っているときに自然に溜まってくるデータをさしています。
もっと具体的に記載しましょう。
電子カルテが一つの例です。
電子カルテは診療で使うものであり、学術研究のためのデータ取得を前提としていません。
しかしながら、電子カルテは情報の宝庫です。
こういった日常生活ででてくる情報の宝庫から情報を抜き出して、解析する方法が確立されてきています。
以前は、臨床研究をしようと思うと、前向き試験を計画せざるを得ず、コスト、時間の観点から気軽に行うことができませんでした。
前向き試験に比較すると、Real world evidenceは低コストで時間もかからないことから臨床試験のハードルが著しく下がりました。
日本国内で独自に見つけたUnmet medical needsに対して、日本のレベルでエビデンスを出すことができるようになったのです。
ヘルスケアデジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーションの影響も見逃せません。
デジタルでは取得できるデータの範囲が広いからです。
事前にデータを作ることも想定して、データを取得できるようにしていることもあります。
たとえば、DNAのヘルスケア事業部であるDeSCの行っているKencomというサービスがあります。
これは、企業健保、自治体の持っているレセプトデータ、健診データなどを突合して、データベースをつくり解析するような事業です。
Kencomではさらに独自のアプリケーションを用いており、健康情報の発信や活動、QoLのデータなども同時に取ることができる仕組みになっています。
今までは、患者の情報は医師が持っていたわけですが、デジタルトランスフォーメーション × Real world evidenceが広まると企業側がイニシアチブを取れる可能性があります。
医師は患者の診察中の状態しかわからないからです。
詳しく言いますと、受診に来ない人の情報、家での情報、病院を変わった後の情報などを医師が把握するということは不可能です。
病院外のPatient journeyに対して研究を行うことで、医師が知り得ない、しかしながら診療上重要な情報を提供できるようになるわけです。
例でだしたKencomのようなサービスはPersonal health record(PHR)と呼ばれます。
PHRのようなデジタルトランスフォーメーション × Real world evidenceは連結された一つの情報となりえます。
つまり、今までの時代では明らかになりようもなかったUnmet medical needsに対して、医師を介在せずに製薬企業がアドレスできるようになってきているわけです。
上市前からの活動激化
パテントクリフ
パテント後も開発品が売れる時代は終わりました。
製薬企業はパテントがあるうちに製品を広める需要が高まっています。
そのためには製品の上市前から活動を始める必用があります。
とはいえ、製薬協の規定もあり、製品の上市前から製品の話を医師と行うことはできません。
治験のデータをコミュニケーションツールとして使えないので、他の要素が必用になります。
そこで、自分たちの新製品がなぜ必用なのか?ということを伝えることができるメッセージが必用になります。
製品がない段階であっても、Unmet medical needsを顕在化させることにより、治療の重要性を喚起することができます。
このときに、最新の自分たちにとって有用なデータを作って広めるということが重要になってきます。
治療の必用な人に治療が届いていないという事実
数多くの疾患に対して薬剤が開発されてきましたが、本当に必用な人にほとんど届いていないのが現状です。
つまり、既存の薬剤がなぜ広まっていないのか?について研究することで、新薬を広めるための障害を早い段階で把握することができます。
なぜ、これが重要かと言うと、近年話題になっているPatient support program (PSP) のネタになるからです。
主にデジタル化に伴い、製薬企業がPSPを行う流れができています。
例えば、今までは有害事象のためにある薬剤を使用することがためらわれていたような状況があったとします。
そして、同じような有害事象がおこる新薬の上市を控えていたとします。
そのようなときに、有害事象を管理するためのPSPを前もって準備しておくことで、有害事象に関しての懸念を減らすことができ、適切に新薬を使ってもらう状況を作ることができます。
そういった、適切に薬剤を広めることを阻害する因子を同定することもデータジェネレーションの重要な目的です。
まとめ
今回はメディカルアフェアーズでデータジェネレーションを重視するようになっている背景について説明しました。
- 接待ではなく、科学的なつながりが重視されていること
- Real world dataなどの新しい研究手法が開発されていること
- 上市前活動が活発になっていること
などが大きい原因として考えられます。